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四日市(澄懐堂美術館)その5
2月の勉強会、三水会のことだが、は明の文徴明の書だった。実は、この書家の千字文を臨書しているので、これは困ったなと思った。と言うのも、彼の字は好きなのだが、ちょっと私とは性格というか性質が相反するのではと常々思っていたからだ。だからこそ臨書しようと思ったのだが。自分が持っていないもの故に求めるということだろうか。

その日は、寒い朝だった。瀬戸の白磁作家、長江さんとお昼を一緒にと約束し、だから少し早目に家を出たのだ。地下鉄で新橋まで行き、山手線に乗り換え品川へ。品川で新幹線に乗るのだ。朝の出勤時に地下鉄に乗るというのは久しぶりだが、とにかく混んでいた。混んでいる地下鉄は好きではない。前から後ろからいろいろな乗客に押されるのが苦手だ。とにかく忍耐と思い、じっと吊革に手をかけ新橋まで我慢していた。ようやく新橋に着き、ドアが開き駅に下りたのだが、皆いっせいに駆けだすのには驚いた。いや、駆けだすというより、速足で階段へ向かうのだ。だから私も駆けだした。そして改札を抜け、山手線に乗り換えるべくJR新橋駅へ走った。JRの改札を通り、山手線のホームへと通ずるエスカレータに乗りホームへと出ると、丁度山手線が滑り込んできた。品川での新幹線への乗り換えは最後部が有利だと知っているので、次の浜松町でいったん電車を降り、後方の車両へと移動した。3両ほど移動すると最後尾だ。品川駅の進行方向で最も後ろに新幹線へと通ずる渡り廊下があるのだ。だから最後尾の車両の一番後ろの扉がでて、エスカレータに乗るのだ。新橋から走っているからか品川でもつい速足になってしまった。我ながらいつもせっかちだなと感心しつつ反省していたことはいうまでもない。

ところで、浜松町は懐かしいところだ。昔、ここにある世界貿易センタービルに事務所があった。出来たばかりの高層ビルで、たしか日本で二本目にできたとか。そこの30階に事務所があった。眺めが良く、東京湾を一望にできた。まだ、地下鉄が発達していなかったので、確かバスでこのビルに通った。自宅から15分ほどか。そういえば、幸か不幸か私には通勤には恵まれていた。混雑した乗り物に乗ったことがない。最初の勤務先は京都で、独身寮が会社の敷地内にあって、通勤時間は0分だった。次に東京のこの高層ビルだった。
その後六本木へ移り、自宅も郊外に引っ越したが、いづれもバスで通勤した。バスは時間が不確実なようだが、なにしろ私の勤めていた会社は朝8時には出勤するようにいわれていたので、朝早い分バスは空いていたのだ。その後、アメリカへ転勤になり、NYでは徒歩にて通い、NJでは車で、シカゴへ移っても車だった。そういうわけで、通勤の満員電車には縁がなかったのだ。

少し話が脱線したが、電車は順調に品川駅に。品川から新幹線に乗れば、名古屋はすぐだ。名古屋にて近鉄に乗りかえ四日市までは特急で約30分。澄懐堂美術館はその近鉄四日市駅から徒歩2分の好立地にある。駅前美術館だ。10階建ての立派なビルで、その7階から10階までを美術館が使っている。大軸をかけるには天井高が5メートルはいるので、最上階の展示室は天井が高い。今回は、文徴明の巻物だった。
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「楷書刺客列伝」と名付けられている巻物で、細かい楷書が升目の中に一字一字、精密な筆致で描かれていた。細かい、だが、端正な筆使いが見てとれる。墨の濃淡もなく、まるで、印刷されたかのように、紙に置かれている様は、一種神秘的でもある。不思議な感覚を覚えた。文徴明と言えば、明の書家であるからもう500年はたっているのに、まるで昨日書いたかのようにも見えた。しかも書かれている文字数は約2万字とか。最初から最期まで、筆致も筆力も墨の濃淡も全く変わらない。大したものだというより、機械で書いたようで、不思議な感じだった。
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聞くことによると、文徴明は発達障害があって幼少時にはかなり苦労したようだ。字も当然旨くなく、長じて後、千字文を毎日10回も書いたとか。千字文は4字熟語250組からなる漢字の勉強帳だが、これを一回書くだけでも大変なことだ。それを10回とは。なるほどこれほど書き続きると字は自ずと上達するものなのだ。だから私は、毎日この千字文を書こうと思って臨書を始めたが、まだ一回すら終了していない。情けない。
by chateau_briand | 2013-02-26 10:47
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